一気にテンション下がった看護学生のゴミ屋敷

私のナンパや出会い系サイトの成功率が高い理由の一つに、「貪欲でない」と

いう事が大きい。あくまで私は「彼女を探す」とか「あわよくばHする」

というのが目的ではなく「その日の寝床を探す」や「あわよくばメシを

食わせてもらう」という非常に手ごろなラインだったので、女性の警戒心を

かいくぐり、高確率で仲良くなることができたのだ。合コンやコンパでも、

顔立ちや性格より、泊めてくれそうかどうかで判断するため、時に

爆弾処理班のような役割を担うことが多く、自然と“お持ち帰り”ならぬ“

お持ち帰られ”率は異常に高かった。

 

その日は大学の男友達の仕切りで、総勢10名くらいの合コンが開催された。

たしか地元の看護学生が5人くらい来てくれて、比較的広いアパートに

住んでいる男友達の家で、それはそれは楽しい時間を過ごさせていただいた。

男性陣が徐々にお目当ての女性を絞り込んでいく中、私は自分が処理すべき

“爆弾”への接近を試みた。私が今回ターゲットとしたのは、おかずクラブ

気が強い方にそっくりな、非常に強面で化粧の濃い看護学生のM。

人数合わせで呼ばれたのだろうが、ずっとブスッとした表情で、盛り上がる

皆を見つめていた。このように真面目で場の空気に溶け込めない気の強い

女性に対し、自宅へ行くにはどのような処理が有効かご紹介しよう。

 

私「あのー、初めましてなのに申し訳ないんだけど・・・お願い聞いてもらえます?」

Mさん「えっ、なに?」私「籍だけ入れてもらえません?」Mさん「は?」

私「あの~入籍だけして欲しいってこと!」Mさん「えっ、全然意味わからない。」

 

今回Mさんに使用した“プロポーズ大作戦”は、私が女性へのアプローチや普段の

営業中にも使う“釣り下げ方式”の一つである。あなたが友人に突然、

「500円貸して」と言われたら、すぐに渡しますか?ほとんどの人が“NO”でしょう。

理由を聞いたり、全く相手にしなかったり・・・でも、もしも「1万円貸して」と

言われた後に「無理なら5千円!」「じゃあ、3千円・・・」と言った交渉の結果、

「じゃあ500円でいいから貸して」と言われたら、面倒なのもあって貸して

しまう人が多いのでないではしょうか。どちらの方法でも手に入れた500円の

価値は変わらず、それであれば可能性の高いこの釣り下げ方式“を使用して

損はないのです。

 

私「じゃあ、子供は3人までにしませんか?」Mさん「いや、なんかキモイ」

(ひいてる)私「お金貯まるまで式は我慢しましょう。」

Mさん「いや、結婚しないし」(ちょっとウザがってる)

私「じゃあ、世界一周旅行だけ付き合ってもらえません?」

Mさん「さっきからほんと訳わかんないんだけど!」(かなり怒ってる)

私「お姉さんに一目惚れです。だから結婚したいんですが、突然で戸惑って

いるようなので、せめてハネムーンだけ先に・・・と思ったんですけど。」

Mさん「はー?」(怒ってはいるが、無視はしてこない)

私「皆さーん、俺たちこれからハネムーン行ってきます!」

大声で皆にそう告げると、私はMの手を無理やり引っ張り、部屋の外へと連れ出した。

 

Mさん「ちょっと!なになになに!?」私「なーんちゃって。なんか

つまらなそうだから、部屋から出たいのかなーと思って無理やり

連れ出しちゃった。大丈夫?飲み会とかあんまり好きじゃないの?」

Mさん「えっ、全然楽しいよ。」私「マジ?全然誰とも話してくれないじゃん!

だから普通に話してもらいたくてこんな手段とっちゃった。」

Mさん「えー、絶対ウソでしょ。」私「本当だよ!籍入れちゃう?」

Mさん「いや、絶対無理。」先程は「は?」程度だったMのリアクションが

変わっている。Mの要旨は美人とは言えない。ただ、その容姿をネタに

するような明るさもないのだろう。Mにとってこの合コンはコンプレックスを

改めて認識させられる“苦行”なのかもしれない。でも、そんな苦行に来ている

時点で、Mは“わずかな可能性”にも賭けているのかもしれない。

 

私「俺はあんまり得意じゃないんだ、こういう飲み会。」

Mさん「え、すごい楽しそうじゃん。」私「いやいや、無理してんだって。」

Mさん「意外かも。」私「お酒が得意じゃないから、結構早めに帰りたい

(帰る家はない)」Mさん「えっ、大丈夫なの?」

私「うーん・・・まあ、空気悪くしても困るし、お姉さんが帰るときに、

“送ってく!”とか言って一緒に帰るかな。お願いしていい?」

Mさん「無理しない方がいいよ。」

 

この瞬間に「入籍」から「一緒に帰る」という釣り下げが成功した。

真面目な看護学生は、体調の悪い人間を心配するというデータがある

(とかないとか)部屋に戻り、飲み会を楽しみながらも、少し疲れた

表情でたまにMに合図を送ると、Mが口パクで“かえる?”と言ってくれる。

本当で真面目で優しい人間なのだろう。きっと良い看護師になれる。

 

幹事の男友達に爆弾処理を実行する旨をこっそり伝え、Mに最後の合図を送る。

Mが帰るのを止める人間はおらず、あたかも玄関までしか行かないノリで私は

「送ってく!」とMの後を追った。玄関を出ると、私は道端に座り込む。

Mさん「ホント、大丈夫?」私「全然余裕~お姉さん来てくれたし~ごめんね、

なんか付き合わせちゃって」Mさん「別にいいけど、家はどこなの?」

私「〇〇なんだよね(車で2時間ほどの適当な僻地)」

Mさん「えっ、どうやって帰るの?」私「考えてなかった。まあ適当に」

 

私はアカデミー賞級の演技力で、“真冬泥酔ホームレス男子”を見事に演じ切る。

私「お姉さんこそ、どうやって帰るの…?」Mさん「私は〇〇だから歩いて

全然帰れる。」私「じゃあ、一緒に歩いて送ってくよ・・・こんな夜道にキレイな

お姉さん歩いてたら、絶対襲われるし」Mさん「いや、ありえない」

過剰なお世辞は不信感を募らせるが、先程まで入籍をオファーしていた私である。

今更容姿を褒めても、自宅に送っていくことを提案しても、彼女はすんなり

受け入れてくれる。

 

私「あー、寒い・・・。」Mさん「ホント、大丈夫なの?帰れるの?」

私「全然心配しないで・・・もしかしたらあの家戻るかもしれないし。」

Mさん「ってか、全然送ってもらわなくて大丈夫だよ。」

私「いやいや・・・俺が変質者だったら、100%襲ってるから・・・」

Mさん「絶対襲われないし。」そんなこんなでMのアパートに到着。

実家じゃなくてよかった。私「ごめん、トイレだけ貸してくれない・・・?

あっ、吐くわけじゃないよ!」Mさん「えっ、部屋汚いし無理。」

私「トイレだけでいいから・・・漏らすよ。」Mさん「えっ・・・じゃあ、

片付ける5分待って。」そういうと、Mは急ぎ足で部屋に入り、鍵を掛けた。

当然私はトイレなど急いでいない。あとはMが約束通り、部屋を片付け、

この鍵を開けてくれれば、私の爆弾処理・寝床確保がほぼ完了する。

 

カチャ!Mさん「・・・いいよ。」Mがドアの隙間から顔を出す。

やはり何度見ても可愛くはない。私「あっ、ありがと!お邪魔します!」

私は驚愕した。むしろ、漏れそうになった。Mの部屋・・・というより廊下も

玄関も全て、ゴミだらけで足の踏み場がなかったのだ。

 

テレビで見るような地域住民とトラブルになっているようなゴミ屋敷が

そこにはあった。私「トイレ・・・どこ?」Mさん「そこのドア。」色々な

臭いが立ち込めており、そんな彼女のトイレのドアを開けるのは正直恐怖だった。

ただ、トイレのドアの周りは床が少し見えており、おそらくはこの5分間で

1度開け閉めをしたのだろう。ガチャ!おそらく急いで何かを拭くため、

乱暴にちぎったトイレットペーパーが、床に着きそうになっている。

便器はまるで地層のように、水垢が色々な色で折り重なっている。

私は蓋をして、立ったまま考える。

 

果たして、この部屋で眠る必要はあるのか?Mはおそらく男性を部屋に

入れたのは初めてだろう。普通の男性なら、玄関を見て帰るはずだ。

そんなMが勇気を出して、私のような綿菓子よりも軽そうな大学生を家に

入れたのだ。もしかするとMは今日、バージンを捨てる可能性まで考えて

いるのでは・・・私は一応水を流し、トイレを出た。Mはリビングの方で

テレビを付けているようだ。リビングまで、なるべく硬くなさそうな

ゴミを選んで、足で避けながら向かう。私「・・・トイレ、ありがとう。帰るね」

Mさん「あっ、うん。帰れるの?」

 

家路に帰るよりも、安全に彼女の部屋を脱出する方が難しそうだった。

ただ、人間だから必ず睡眠はとるはず。少なくとも人間一人分のスペースが

ベッドにあると考えて間違いない。サラリーマン金太郎

「人間は座って半畳、寝て一畳あれば十分」と言うのであれば、私はその

一畳でMを大人にして、明日まで眠るしかない。私「なんか・・・フラフラ

するから、少し休んでもいい?」Mさん「ホント、大丈夫?」

 

Mは心配そうに、自分の周りに散らかったゴミやゴミ、更にはゴミを、

部屋の端の方に寄せ始めた。すると、なんということでしょう、先程まで

Mがテレビを見るために座っていたリビング中央のゴミ達の下から、

敷布団が顔を出しました!・・・そう、Mの部屋にはベッドなんてなく、

Mの座っていたスペースこそが唯一の空間だったのだ。

 

ここでは・・・無理だ。私は撤退を決めた。こんなところで私の

スペシャルピストンを繰り出せば、アパートのゴミ達がどうなるか分からない。

“アパート内で土砂崩れ、下流から21歳大学生の遺体を発見”なんてニュースが

流れることとなる。私「やっぱり、帰るよ。また絶対遊ぼう!」

Mさん「うん・・・ホント、気を付けてね。」1人暮らしの女性の部屋に入り、

触れることもせず撤退することは非常に心苦しい。プライドも傷つくが、

Mの部屋は本当に、生命の危険を感じるほどの汚さだった。Mにどんな趣味が

あるのかは分からないが、とても古いゴルフ雑誌が玄関に落ちていた。

靴を履いている私に向かって表紙の丸山茂樹が「ファー!」と叫んでいるようだった。