太平洋のような ストライクゾーンを持つ私はブスでもナンパ

人妻のヒモ状態に突入してから、私の経済情勢は一気に安定を見せた。

2~3日に1回会っては、オッパイを満喫して、ご飯をご馳走になって、

オッパイを満喫して、1万円程度のお小遣いをもらっていた。

Kの旦那の実家が不動産で成功しており、豪邸住まいだが、家には1円も

お金を入れなくてよく、Kは自分の給料と、旦那の給料の一部を好き放題

使えているとのことだった。

 

ただ、厄介だったのが、Kは私が他の女性とコンタクトを取ることを極端に

拒絶し、自分は結婚しているくせに私を“束縛”してくるタイプだった。

こちらとしては貴重な収入源であり、食欲も性欲も物欲もKが存分に

満たしてくれるので、K以外の女性を探す必要はないのだが、Kは人妻で、

毎晩はホテルには泊まれないし、もちろん自宅にも泊まれない。

そのうえ、この時期は大学が長い冬休みに入り、男友達もみんな地元に

帰省してしまっていた。そのため、私は漫画喫茶などで一晩過ごすことが

増えたのだが、いつまで続くか分からないKとの関係の不安から、

漫画喫茶のパック料金さえ勿体なく感じていたのだ。

 

そんな状態で、クリスマスが終わり、1年が終わろうとしていた年末のある日、

私は相変わらず寝床も確保できずに、深夜まで営業しているレンタルビデオ店

暖をとっていた。私がいつも愛用していた漫画喫茶は、深夜0時以降に

入店すると、とてもお得なパックがあったので、その日も時間を潰して

いたのだ。閉店が近づき、店内の客もほとんどいなくなった。

そろそろ漫画喫茶へ向かおうとしていたその時、女性の店員が返却された

DVDを売り場に戻しているのが目についた。

 

当時の私は視界に入る全ての女性が“対象”であり、下半身を中心に生きている

状態だった。明らかに仕事をしている最中のその女性も例外ではなく、私の

ターゲットになった。私「・・・すみません。」店員「はい。」

(店員としての機械的な返事)私「おすすめのDVDありますか?」

店員「えっ・・・」 声をかけて、近くで冷静に見ると、この店員・・・

とんでもないパンチのある顔面をしていらっしゃるでなければ、声をかけることはなかっただろう。

店員「おススメ・・・えーっと・・・」 その店員はかなり困惑した様子で、

それでも必死に近くのDVDコーナーを探してくれた。

 

そして当時新作だったディズニーピクサーの映画を1本選んでくれた。

ただ、お気付きだろうが私は、“テレビも無ぇ ラジオも無ぇ オラはそもそも

家が無ぇ”ので、DVDを借りる予定などサラサラ無かった。しかしそこは

生粋のナンパ師。私「わー!めっちゃ面白そう!」

店員「はい!私も映画館で見たんですけどペチャクチャ

(早口でおすすめポイントを話してくれている)」

私「じゃあ、一緒に見てくれません?」店員「・・・・・・はい!」

失礼だが、きっとこの女性は生まれて初めて、男性にナンパをされている。

私は呼吸をするがの如く自然と行っているナンパだが、彼女にとっては

初めての経験。明らかなる動揺をしているが、その様子もまたパンチが

効いてる。

 

私「閉店してからも仕事結構あるんですか?」店員「30分くらい・・・」

私「じゃあ、向かいのコンビニで待ってます!」店員「えっ・・・」私は

自分が白馬の王子様の如く、さっそうと店を出た。コンビニで待機し、

彼女が出てくるのを待った。きっと彼女は閉店後の仕事が手に

着かなかっただろう。「〇〇さん!何でこんなミスしたの?」なんて

上司に怒られ、「いつもはこんなミスしないのに」と周りに心配され、

「変な人について行ったら絶対ヤバい・・・でも、気になっちゃう」なんて

戸惑いながらも、チラチラと店の外を見てしまう・・・そして、その顔も

きっとパンチが効いてる。

 

結論から言うと、彼女の名前は最後まで知ることがなかった

(なので経緯を込めて“パンチ”と呼ぶ)。パンチは閉店して10分くらいで

店から出てきた。「お姉さん、車持ってますか?」と私が改めて声をかけると、

「はい・・・」と先程より少しやわらかい感じで返事をしてくれた。

Kにバレたら大変だが、このくらいパンチが効いていれば、私が下心で

動いているのではないと分かってもらえるだろう。私はとにかく、

“あったかい布団で眠る”ことができればそれでいいのだ。

 

パンチは実家暮らしだった。さすがに実家に行く気はない。私の家に

来るつもりだろうが、私には家がない。パンチもパンチでどうかしているが、

そもそもパンチおススメのDVDを借りていない。フワフワも何も積んでいない、

燃費のよさそうな乗用車に乗せてもらい、私も私で困ってしまった。

“寝床も無ぇ オッパイも無ぇ おそらく今まで経験も無ぇ”パンチとこの後、

どうすれば良いのか分からなかった。レンタルビデオ店の駐車場で、変な

時間が流れていく。私も、なんでもかんでも声を掛ければよいわけではないと

反省をしていた。「・・・あの、これ要りません?」パンチが突然、カバンから

小さな箱を渡してきた。開けてみるとそこには、ドルガバのネックレスが

入っていた。

 

ブランド物に詳しくない私でもすぐに分かるくらい、“D”と“G”の文字がとても

大きく刻印された分かりやすいネックレスだった。私「えっ、なにこれ?」

パンチ「あっ、もらったんですけど・・・私つけないんで。」大変申し訳ないが、

私もつけない。ただ、そこそこ高そうな箱に入っていて、全くの未開封だった。

結構な値段がするだろう。私の頭の中にはすっかり、リサイクルショップの

店内BGMが鳴り響いていた。私「ありがとう!メッチャ格好いい!」

開封すると買取価格が下がるので、あくまでも開けない)

パンチ「よかったです。」ついさっき声を掛けて、特に用事もなく車に

乗り込んで、ドルガバのネックレスをもらえた。

 

少し申し訳ない気持ちになったので、朝まで営業しているカラオケに行って、

お酒の勢いでパンチの唇を奪った。(何度も言うが私はこの後に、この

カラオケ店の店長になる。)さすがに、“上パンチ”は攻略できても

“下パンチ”へ攻める気にはなれなかった。それはパンチの顔面が

パンチだからではなく、キスの感じからしてもパンチが“バージン”なのは

間違いなく、それがこんな男に奪われるのは絶対に良くないことだと

思ったからだ。

 

お酒とパンチのビジュアルのせいで、私の“下パンチ”が全く反応しなかったのは

決して関係ない。カラオケ代はパンチが支払ってくれたので、私は連絡先も

交換せずに、パンチの車で漫画喫茶まで送ってもらった。

パンチの唇の感触は一切覚えていないが、ちゃんと目を閉じていたのは少しだけ

可愛らしかった。パンチも、何が起こったのかよく分からないまま、きっと

DVDを棚に戻し続ける、いつもの日常に戻っただろう。ちなみにドルガバの

ネックレスは、コピー品で買取してもらえなかった。