ホームレスの収入源は目押しできないスロッター

私は“イケメン”と言われた経験がほとんどない。

ただ、自分でも不思議なくらい、女性とのご縁は多く、モテるか、

モテないかで言えば・・・間違いなく後者だろう。

しかし、ファッションや髪形などに気を使ったことはほとんどなく、

歴代の彼女達が買い与えてくれた服や装飾品をずっと使い続けていた。

看護師の家で一人、これからの事を考えていた。

寝床と食事を確保したにしても、所持金が0円で携帯電話が

止まっている状況に変わりはない。まずは携帯電話を使えるように

しなければ、この看護師とも連絡を取れなくなるし、

ナンパが単発で終わってしまう。

 

約2万円の滞納していた携帯料金の支払いのため、犯罪以外で

すぐに現金を手に入れる方法を真っ裸のままで考えた。ここで、

その当時、私が実践したウソのような“悪魔の錬金術”を

紹介しようと思う。まず、私は一か八か以前まで同棲していた

元彼女の家へと向かった。携帯料金が引き落としにならなかった時に

来る支払い用紙を手に入れる必要があったのだ(看護師の家からは

歩いて行ける距離だったのは幸運だった)駐車場に元彼女の車が

あるのを確認し、インターホンを鳴らす。つい一か月前まで愛を

奏で合っていたパートナーとは思えないような鬼のような声で

「なに」と言われた。ヨリを戻すなんて言う気はサラサラ

無かったが、向こうは私がそのような目的で来てると勘違いして

いそうだった。サバサバと携帯料金の支払い用紙を引取り、

私の“本当の目的”のため部屋を猛スピードで見渡す。

 

「全部捨てたよ」そんなことは分かっている。でも、

キッチンの棚の奥に隠すように飾っていた新品の

ペアZIPPOは予想通りまだ残っていた。

タバコを吸わない元彼女に、パチンコで物凄く勝った

勢いで購入した3万円以上するものだった。

「これだけ最後の思い出にもらってくわ。本当にゴメン。

あと、ありがとう」驚くことに、この後の約1年の

ホームレス生活を終えて、色々なことを乗り越えて、

この元彼女とは結婚することになる。

そして、すぐに離婚することにも!

 

人生というのは本当に何があるか分からない。

別れても捨てられなかったペアZIPPO

リサイクルショップに持ち込むような男だから、

離婚を選んだ元彼女の判断は正確だろう。

1時間ほど歩いて到着したリサイクルショップでの

換金額は1万円程だった。思ったよりずっと安かったので、

私はそのままパチンコ店に向かった。

この1万円をパチンコで増やす・・・なんて事を考えるほど

馬鹿ではない。ここからが“悪魔の錬金術”である。

割と客の多いパチンコ店でスロットコーナーに向かう。

お年寄りや女性のスロッターの中には、せっかく大当りを

引いても“777”の図柄を揃えることができず、隣の人や

歩いている若い男性に代わりに揃えることを

お願いすることがある。私は台をチェックする

フリをしながら、そのような女性を探す。

 

30分ほど物色し、777を揃えるのに

苦戦している女性を見つける。自分の母親よりはるかに年上の、

場末のスナックのママのような女性だ。さりげなく隣に座り、

千円札を投入する。打つ準備をしながら、さりげなく

ママの台の777を揃える。「いやあ、助かったわ!」と拝まれる。

私は「全然かまわないですよ!」ととびきりの笑顔で答え、

なるべくコインが無くならないよう、ゆっくりとスロットを打つ。

連荘モードに入ったであろうママの台は、すぐに次の

大当りを引き当てる。液晶に「ボーナス確定!」と

表示されるたびに、ママが申し訳なさそうに私を見つめる。

私は満面の笑みで777を揃える。トイレに行ったり、

なるべく席を外しながらも、ママの隣の台に座り続ける。

ママは缶コーヒーを私に買ってくれた。

 

ただ、私は缶コーヒーをもらうために777を

揃えているわけではない。三千円程使ったところで、

財布の中身を何度も確認し、まだ打つかを

迷っているふりをする。「もう、やめちゃうのかい?」

「うーん・・・これ以上打ったら、ご飯食べれなく

なっちゃいます!」「いやー、おばさん困るべさー!」

そういうと、ママは私の台に数百枚のコインを投げ入れる。

「もうちょっと打ちなさい!」「あー、すみません!!」

これが悪魔の錬金術である。これで私は、自分のお金を

ほとんど使わずに、スロットの大当りを目指すことができる。

 

コインが無くなりそうになれば、好調なママが

コインを分けてくれる。大当りを引いても、コインを

返すようになんて言われない。缶コーヒーを

お返しするだけで十分だ。うるさい店内では隣同士で

会話をするにも、耳元に顔を近付けないとなかなか

聞き取ることができない。スロットも好調で、

若い男性で耳元で囁かれ続ければ、ママのテンションは

上がりっぱなしだ。最後まで私が大当りしなくても、

食事位はご馳走してもらえる自信があった。

結局おばちゃんに千枚ほど分けてもらい、最後に引いた

大当りが少しだけ連荘して、私は2万円程

ゲットすることができた。

 

ママは私に分けてくれても、その倍以上のコインを

持って帰って行った。「また、一緒に打ちたいです!」と

挨拶して、私もそそくさとパチンコ店を出た。

すぐに携帯料金を支払い、少しのお酒とタバコを購入して、

看護師の家へと向かった。すでに帰宅しており

「鍵無いから焦ったー!」なんて言いながら、

当然のように私を家に招き入れた。

すっかり彼女になるつもりだろう。一緒に風呂に入り、

簡単な食事を作ってもらい、買ってきた酒を飲み、

肉体のコミュニケーションを済ませる。次の日は

仕事が休みらしいのだが、私はすっかり味を

しめていたので、残金の数千円を錬金術

増やすことしか考えていなかった。

 

「大学終わったら遊ぼうよ!」と言って、翌日も錬金をしに行った。

その日はターゲットが見つからず、看護師の家で大人しく寝ていたが、

携帯電話が復活したので、彼女のベッドでずっと出会い系サイトで

次の女性を探していた。

 

こうして1週間ほど看護師の送迎付きでパチンコ店を

転々とし、錬金術には2度ほど成功して、2万円程の

所持金を手に入れた。そのお金で今まで無関心だった

服を買い(一部は看護師に買ってもらった)出会い系

サイトで見つけた美容師の卵に無料でパーマや

カラーリングをやってもらい、とてつもない“チャラ男”に変身した。

そして、大学の男友達の家と看護師の家を転々とし、

12月を迎えようとした時、看護師から交際を迫られた。

実際にはずっと前からそういう話にはなっていたのだが、

いい加減限界が来たようだった。付き合わない限り、

これ以上の寝泊まりは難しそうだ。しかし、すっかり

チャラくなり、出会い系サイトでのヒット率も

高くなっていた私は、自分がホームレスだと言うことも忘れ、

看護師に鍵を返した。“安定”ではなく“波乱”の道を選んだのだった。

この選択が正しかったのかは、今でも分からない。