空き缶拾いや廃品回収でなくて私はナンパホームレス

一般的にホームレスの収入源と言えば、空き缶拾いやゴミ箱からの

廃品回収などがイメージされるが、私は“ナンパ”で生計を立てていた。

10月から4月頃までの北海道で野宿をすれば、それは間違いなく“死”を

意識することとなる。夏場でも朝方はぐっと気温が下がるので、

私も約1年近いホームレス生活でも、全くの屋外で野宿をしたことは

ほとんどなかった。

 

ビニールシートや段ボールで河川敷に家を作っているような

ホームレスは私の地元にはいなかった。ただ、大きな荷物を抱え、

ボロボロの衣服でいつも駅やバスターミナルにいるホームレスは

私が中学生の時から2人ほどいた。駅の待合室にはホームレスが

いると、とんでもない異臭が充満する。きっと駅の職員も何度も

注意はしているのだろうが、私がホームレスになった時も、

駅の待合室には行かないようにしていた。

 

2021年の調査では札幌と苫小牧で36名のホームレスが

確認されている。約10年前はもっといたのかもしれないが、

本州に比べると明らかに数は少ない。

札幌では、地下鉄の出入り口の階段で雨風を凌いだりして

いるそうだが、苫小牧は地下鉄など走っていない田舎町なので、

冬はどこにいるのだろうか全く分からない。そこで私は、

2021年に仕事の都合で札幌に行った際、少し足を延ばして

苫小牧のホームレスを捜索してみた。現在の私は結婚をして、

子供もいる真面目なサラリーマン(という事になっている)ので、

ナンパなどはしていない。ただ、道行く人に声を掛けるのには

相変わらず何の抵抗もなく、ホームレスの調査も聞き込み

調査から始めることとした(対象はやっぱり若い女性になる)。

 

苫小牧は自家用車の所有率が高く、道を歩いている人は

ほとんどいない。苫小牧駅周辺もすっかりシャッターだらけに

なっていて、駅構内も広いとは言えず、ホームレスも

もちろんいなかった。北海道の調査では、2021年1月時点で

2名のホームレスが苫小牧市で確認されている。

私は、苫小牧駅と直結しているドン・〇ホーテに行き、

誰か話を聞けそうな人(若い女性)を探すこととした。

すると・・・とてもエキセントリックな臭いが

マスク越しでも私の鼻を侵食した。

 

ホームレスはホームレスを引き寄せるのかもしれない。

1F食品売り場の一角にある“バス待合所”に、明らかに

それとわかるような男性が座っていたのだ。本来、バスを

活用するであろう学生たちは男性から距離を取り、男性は

腕を組んで大きな荷物を足元に置いて眠っている様子だった。

その時期は夏で、苫小牧も割と暑かったが、男性は夏にしては

厚着をしていたのが印象的だった。

 

「あの人って、いつもここにいるの?」と元ホームレスが

女子高生に声を掛けた。「えっ、いるよね。」「いるいるいる!」

と女子高生たちは教えてくれた。10年前なら「そうなんだ、

ところでこの後お兄さんのドンキをホーテホーテしない?」と

切り返したのだが、30歳を過ぎたおじさんがそれをやると

犯罪になる。それ以上に聞き込みは諦め、私は男性本人に

話をすることとした。

 

鼻呼吸を控え、男性が眠るベンチに近付き「お疲れ様です!」と

声を掛けたが、男性はピクリとも反応してくれない。

一切の外界との関係を拒絶し、ただただ腕を組み眠り続ける男性が、

夜をどこで過ごしているかは分からなかったが、ホームレスは

確かに存在した。衛生的にも、その場に長くいられなかったが、

最後まで男性は、学生たちが全員バスに乗り込んでも、

また次の乗客が集まってきても、全く動く様子はなかった。

 

私がホームレスの時は、女性の家に泊めてもらうことを

メインとしていたので、風呂には定期的に入ることができていた。

衣類はそこまで多くなかったので、大学の部室で保管し、

定期的にコインランドリーを使っていた。色気づいて

香水なんかも使っていたので、少なくとも周りを不快に

させるような匂いはしていなかった。ただ、一度この男性のように、

周りが何も気にならず、全てを諦めた生活を送ってしまえば、

洗濯や風呂なんてどうでもよくなり、ただただ“生きる”という

道から戻ることが難しくなる。

 

北海道でホームレス生活を送ることは並大抵の

覚悟では不可能だ。冬は雪が降るし、歩いているだけで

指先の感覚がなくなってくる。外で眠ってしまえば

そのまま死んでしまうような気温が続く。

夜は公園のトイレや、大型施設の室外機の周りにいるとは

噂で聞いたことがあるが、決して満足に睡眠はとれないはずだ。

 

人口も少なく廃棄される食糧だってほとんどない。

コロナウイルスの影響で、失業者は間違いなく増えていく。

ホームレスをしていた時のあの心境は、二度と経験したくない。

一度道を外れてしまったホームレス達にチャンスが

巡ってくるような国になってほしいと、心から願うばかりだ。