土木作業員の男性4人から受けた暴行

Kのヒモを続け、容姿はどんどんと派手になり、相変わらず家は無いものの、

男友達の家も転々としながら、春を迎えることができた。

大学は春休みも長く、男友達は帰省してしまう。たしかその日はKと

オープンしたてのラブホテルに泊まり、朝方に旦那に怪しまれないよう

先に帰ったKを見送った後、一人で広いベッドに寝そべっていた。

“また寝床の確保に困る季節が来たなあ・・・”なんて能天気なことを

考えていると、チェックアウト間近の10時ごろに突然携帯が鳴った。

 

私「・・・もしもし。」従妹(いとこ)『何してるの!今どこにいるの?』

電話先で私を怒鳴っているのは、同じ年の従妹だった。私「〇〇だよ

(新規オープンで宿泊者全員にはちみつローションをプレゼントしてくれる

気前の良いラブホテル)」従妹『忘れてるしょ!皆もう集まってるんだよ?』

私「あれ、なんかあったっけ?」従妹『婆ちゃんの一周忌でしょ!すぐに来てよ!』

私「ああ・・・(メールが来ていたんだった)」父型の祖母は、私が小さい

ころから同居しており、昨年亡くなっていた。勉強もできて優等生だった

私をベタベタに可愛がってくれていたのだがガンで旅立ってしまっていた。

私「車ないよ。」従妹『もーっ!迎えに行くから外に出ててよ!』

私「喪服もないや」従妹『叔父さんから借りてあるからとりあえず

外にいて(ガチャ)』

 

この従妹、今でもずっと私の面倒を見てくれている。本当によく出来た従妹だ。

そして、一周忌を行うお寺から、私の宿泊しているホテルはある程度近かった。

きっと婆ちゃんが私とKを引き寄せてくれたのだろう。ありがとう、お婆ちゃん。

こうして、従妹に迎えに来てもらい、白いくらい金髪に変貌して、背の低い

叔父さんの喪服を借りたせいで、シックなルパン三世のような姿で法要を終え、

10人ほどの従妹で久しぶりにカラオケに行くこととなった。もちろん行くのは

私が何度もお世話になっているいつものカラオケ店。

 

「いらっしゃいませー」愛想よくカウンターから出てきたのは、とんでもない

歯並びだが、髪の毛がばっちり決まっているギャルだった。

私「10人なんですけど、僕はお姉さんと2人で別の部屋入りたいです。」

ドン引きする従妹たちの前で、調子に乗って受付のギャルを口説いてしまった。

受付ギャル「えーっ、彼氏いるから無理です!(ヘラヘラしてる)」

私「じゃあ、浮気相手でいいです。」受付ギャル「いらないしー!じゃあ、

一緒に働きません?」私「はい、そうします。」

 

私は何故か即決で、そのカラオケ店でアルバイトすることを決めた。

従妹たちが部屋に案内された後、オーナー夫婦に奇妙な喪服のまま面接をされた。

もちろん履歴書も何もないので、全て口頭での聞き取りとなったが、磨き続けた

トークスキルですぐに採用。何とその日の夜にはカウンターに一人で立っていた。

 

受付ギャル「本当に働いてるとかマジウケるー(歯並びが壊滅的)」

私「はい!なんでいつか二人でシフトの日に・・・お願いします!」

受付ギャル「ウケるー!お疲れー!」歯並び壊滅ギャルは、さっそうと

帰って行った。ちなみにこのカラオケ店、オーナーと店長以外は全て女性スタッフ。

夜に出勤してきた店長は、毎回違う女を連れ込んでくる常連の私がスタッフに

なったのを知り、心底驚いていた。店長は私より一つ年上のイケメンで、

少し話をしたらすぐに仲良くなることができた。

 

家もないのにアルバイトが決まり、イケメンとギャルに囲まれる生活が始まった。

人手不足だったので店長の休みは月に1日だが、私は毎日でも出勤できたので、

夕方18時から翌朝3時までびっしりとカウンターに立ち続けた。閉店後の掃除も

自ら積極的に行い、サービス残業をしてスタッフには先に帰ってもらった。

飲食店で働いていたので、大量のドリンク作りや、トレーでそれを一気に

運ぶことも何も問題なかった。頭脳だけは優れていたので、カウンターでも

要領よく部屋を埋め、不思議と売上が良くなっていった。

 

3か月後には副店長になり、半年後にはイケメン店長がとある事情で

退職してしまい、自然に店長となってしまったのである。フルシフトなので

月収は30万円オーバーとなり、Kと会う時間は少なくなっていった。それでも

たまに空いた時間は私がご馳走することも増え、家がない以外はかなり

充実した生活を送っていた。

 

そんなある日、一人でカウンターに立っていると土木作業員のツナギを

着た男性4人ほどが来店した。私「いらっしゃいませ、4名様ですか?」

土木作業員「女だけの部屋ない?(このようなナンパは日常茶飯事)」

「いやー、ないんですよ。みんな男連れです!(女だけの部屋はあった)」

土木作業員「チェックしてきていい?」私「いやいや、他のお客様のご迷惑に・・・」

と突然―――――――― バキッ!男性に顔面を殴られた。

 

私もスイッチが入り、カウンター越しに男性に掴みかかる。

受付ギャル「キャー!」ドリンクを運び終え、カウンターに戻ってきた

歯並び壊滅ギャルが悲鳴を上げた。

私「〇〇さん!パントリー(厨房的な場所)に下がってて!」

受付ギャル「警察呼びますよ!(ギャルが男性の腕を引き離そうとする)」

土木作業員「うるせえ!」受付ギャル「痛い!」

 

男性はギャルの足を踏みつけた。サンダルで仕事をしていたギャルの

爪の一部が剥がれ、血が出てきた。私「お前らマジでなんなんだよ!」

必死にすごんで男性に襲い掛かるが、4人相手に立ち回れるほど私は強くなく、

地面に倒され、警察が来るまでの間、殴る蹴るの暴行を受け続けた。

4人のうち2人は先に逃げ出したが、結果的に全員逮捕された。

私は肋骨4本などを骨折し、歯も折れてしまった。病院に搬送されて、

実家に連絡が行き、1年ぶりに母親と対面した。

 

母親「あんた、ほんとに何してんの?」私「いきなり殴られた(事実)」

母親「また、変なことしてたんだべさ!」“息子がリンチにあって病院に運ばれた”

と聞いて、母親は何時間もかけて車で来てくれたのだろう。入院の手続きを

済ませてもらい、妹たちが翌日には荷物を持ってきてくれた。

“勘当された”と決めつけ、勝手に距離を置いて、ホームレスになった息子を、

心配してくれる母親や妹に、正直な現状を伝えた。

 

母親は激怒し、もう何本か肋骨を折るような勢いで私を怒鳴り続けた。

でも最後に「とりあえず、帰ってきなさい!」と言ってくれた。父親になった

今ならわかるが、親はどんなことがあっても子供を見放すことはないと思う。

そして、世界中の全員が敵になっても、最後まで味方なのも親なのだと思う。

自分の子供がホームレスになってしまったら、どんなに悲しいことだろうか・・・

母親には本当に申し訳ないことをしたと深く反省している。3日ほど入院して、

カラオケ店に戻ると、歯並び壊滅ギャルが半泣きで出迎えてくれた。

どうやら店では“酔っぱらいの男たち4人からギャルを守った店長”という事に

なっており、前歯がない状態ではあったが、女性スタッフが羨望の眼差しで

見つめてくれた。

 

それからしばらく働いて、リンチ事件から3ヶ月くらいしてカラオケ店を辞めた。

ホームレスをしながら好き放題して働いていたカラオケ店にいたままでは、

何も変わらないと思った。お金もある程度貯まったし、実家に帰ることもできる。

オーナー夫婦は正社員として採用したいとも言ってくれたが、ありがたく辞退した。

私は新しい道を歩みだすため、カラオケ店を“卒業”した。何の関係もないが、

歯並び壊滅ギャルも一緒に辞めた。