タクシー運転手も行ってくれなかった西成三角公園

私は約1年間のホームレス生活を終え、女性とのセッションは

相変わらずなものの、会社に就職し、結婚し、家を建て、

二児の父親となることができた。当たり前の日々を送る中で、

ホームレスの方の事が気になり、ネットなどで色々と調べ、

前述したようにホームレスの調査を自主的に行うことが年に数回あった。

家族で東京に旅行に行った際も、嫁と子供をスカイツリーに連れて行き、

帰りにホームレスの家であるブルーシートが河川敷に並ぶと言われる

隅田川を調査した。

 

私が行った2019年ころは、隅田川からホームレスの方は一掃されており、

ほとんどブルーシートは確認できなかった。ただ、橋の下を見てみると、

ガスコンロのフライパンにちぎった肉や野菜を入れて、料理をしている

ホームレスの方を見るけることができた。「お疲れ様です!」と声を掛け、

セブンスターを男性に差し出すと、男性は当然のように1本受け取り、

差し出したライターで火をつけた。私「1月でも東京はあったかいねー。」

隅田川のホームレス「ん?どっから来たの。」

私「北海道から来たんですよー!」

隅田川のホームレス「ふーん、なんしたの。」

 

とても無機質な受け答えに見えるが、北海道のホームレスよりも、

どこか開放的で、劣等感だらけには見えなかった。嫁と子供は不安そうに、

橋の上から私を見守っている。私「スカイツリー見に来たんですよ!」

隅田川のホームレス「ふーん、そっか」男性は私に興味など持たず、

フライパンを動かし、タバコをふかしていた。私「美味しそうですね!」

隅田川のホームレス「やめときな」誰も「食べたい」とは言っていないのだが、

やんわりと男性の「青空レストラン」に入店を拒否された。

おそらく、セブンスター1本では挨拶程度しかしてくれないのだろう。

私もそれ以上のコンタクトは難しいと判断し、橋の上の家族の元に戻った。

 

仕事で、大阪出張の時も、自費で前泊をして、大阪市内のホームレスの

調査を行った。大阪には日雇い労働者の聖地である“西成”という地域があり、

どろぼう市と呼ばれるヤミ市や、三角公園というホームレスのベットタウンが

あるのを事前に調査しており、是非自分の目でそれを確かめたかったのだ。

ただ、天性の方向音痴である私は、西成にどのようにしていけばよいのか

わからず、取引先と会食を終えた22時ごろに1台のタクシーに乗り込んだ。

 

私「西成までお願いします!」運転手「西成?何しに行くの?」

私「(何しにと言われても・・・)なんか、見てみたくて!」

運転手「お兄さんみたいのがフラっと行くところちゃうで」結局、

そのタクシーは西成に行ってくれなかったので、難波の町から

歩いて西成を目指した。人に声を掛けるのは何の抵抗もない

私だったが、西成が近づくにつれ、だんだんと営業している店舗が

少なくなっていき、暗くなっていくので、声を掛けるのが怖くなっていた。

 

外で用を足す人が多いのか、独特のアンモニア臭も相まって、

結局三角公園に着く前に、ホテルへ帰ってしまった。

翌日、難波の中を散策してみたが、宴席の上で眠る人や、

大きすぎるリアカーを引く人が目につき、北海道のように

探さなくてもホームレスの方がたくさんいる事が分かった。

ただ、北海道では物珍しそうな目で見られがちのホームレスだが、

大阪の道行く人々は一切の興味を持たず、電信柱と同じような感覚で、

リアカーの横をすり抜けていく。

 

物乞いをしている人もその時に初めて見た。私がホームレスを

していた時は、“沖縄とかでホームレスをしたら、一年中外で

寝られるからいいなー”なんてことをよく考えていた。しかし、

本州の公園のベンチには、ホームレスが横に慣れないように、

真ん中に突起物を付けていることが多く、いたるところに

“座り込み禁止”や“放置した荷物は処分します”などの注意喚起が

なされていた。そもそも道を歩く人の人数も桁違いなので、

周りの視線を気にしてばかりの私には、ここでのホームレス生活は

不可能だとすぐに実感した。

 

生まれてからずっとホームレスを目指している人なんて

この世にはいないと思う。何かと何かを天秤にかけて、ホームレスの

方が楽だと思い、そのような道に踏み込んでしまった人ばかりだし、

私もそうだった。

 

最初は1か月位で何とかなる・・・なんて考えていたが、蟻地獄のように

ズルズルと引き込まれ、地上に這い上がるのには相当な時間を費やした。

もしこれを読んでくれている方が今、横になれる自分の居住地があり、

死なない程度の食物を口にできる生活を送れているのなら、それを

守り続けることを強くお勧めする。“ホームレスの方が楽”なんてことは

絶対にない。それは全国どこに行っても変わらないと感じた。