出会い系サイト攻略は文章力

ドッスンと別れ、見え見えのフィッシングメールに引っかかった

私の携帯には、朝起きると吐き気がするほどの迷惑メールが届いていた。

どうやら私の童貞は、女医師(40歳)や女インストラクター(32歳)の間に、

数百万単位という高値で市場に出回っているようだった。

すぐにメールアドレスを変え、アドレス変更のメールを40人ほどの友達に

一斉送信した。うっかりドッスンにも送ってしまった。

 

学校に行くと、ドッスンの周りの女子の視線が冷たい。

ドッスンの友達なので、個性豊かな面々なのだが、ドッスンがどういう

理由で別れを決断したのか分からない以上、彼女たちが私にどのような

感情を抱いているのかも、分かるはずがなかった。昼にクラスメイト数名と

渡り廊下で弁当を食べている時に、ドッスンと別れたことを報告した。

みんな大爆笑だった。「ドッスンとヤッてほしかったなー!」

ドッスンの裸教えてほしかった!」などと、からかい続ける友達に

少し腹が立った。「どこまでやったの?」と聞かれ、「インコがパニックに

なって髪の毛を触ったとこまで」と正直に答えると、数名の友達が飲み物を

吹き出した。

 

ドッスンと別れたからアドレス変えたの?」と聞かれたが、そこも正直に

「迷惑メールが止まらなくなった」と答え、私の童貞が高値で取引されている

メールを見せると、呼吸困難になるやつまでいた。

「“エキサイトフ〇ンズ”やればいいじゃん。」一人の男友達がボソッと呟いた。

彼はワックスで髪の毛をツンツンに立て、隠れてタバコを吸っているような

不良であったが、田舎者の私をからかうのが大好きで、いつも一緒に昼食を

とっていた。

 

20年以上前の話なので、当時はもちろんガラケーで、カメラが徐々に

搭載され始めたが、パケット通信料に無制限というプランもほぼ無かった。

そんな彼のガラケーを見てみると、色々な女性のプロフィールがズラリと

並んだサイトが表示されていた。私「これで、近くの人と友達になれるの?」

男友達「俺、普通にヤリまくってるよ。」 ヤリまくってる?ドッスン

髪の毛に触れて以来の衝撃がイチモツを駆け抜けた。なぜ、同じ高校で

同じクラスの彼は、出会い系サイトでヤリまくっているのに、私は童貞の

ままドッスンにフラれているのだ。

 

確かに、その友達はイケメンで、女子とのコミュニケーション能力も高い。

私が彼に勝っているのは素行の良さと、市場価値の高い童貞を守り続けて

いることくらいだろう。私は彼にポカリスエットのご馳走と、昼食後の

一服の際の見張り役を条件に、“師匠”と呼ばせていただき、その

エキサイトフ〇ンズ(通称:エ〇フレ)について指導してもらった。

 

エ〇フレは、メール友達を募集する男女が、それぞれのプロフィールを

投稿しているだけの非常にシンプルな掲示板だった。プロフィールの端に

あるメールのマークを押すと、すぐに本人へのメール送信画面に

切り替わるので、登録も一切必要ないサイトだった。

検索条件に都道府県や性別、年齢などを入れると、お目当ての女性の

プロフィールがズラリと表示されるとても良質なサイトであった。

私「これ・・・全部友達募集してるの!?」男友達「ほとんど“ニセモノ”だからな。

すぐ見分けれるよ。」

 

師匠が言うとおり、このように使いやすいサイトには“サクラ(業者)”が

蔓延していた。95%がサクラと言っても良かっただろう。

サクラのプロフィールには、とんでもない美人の画像や、セクシーな画像、

またはとてつもない淫乱な内容の投稿がされており、ライオンのオスメスの

判別くらい簡単に見分けることができた。ただ、危うく女弁護士に300万円で

童貞を落札されかけていた私は、慎重に彼の指示を仰ぎ、授業中も気になる

プロフィールを見つけては、師匠に業者かどうか判断を仰いでいた。

師匠でも判断がつかない時は、とりあえずメールを送ってみた。すると、

授業中にもかかわらず、怒涛の迷惑メールが押し寄せる。師匠に見せると

教科書で顔を隠しながらゲラゲラ笑い、“スマン”と手を合わせられた。

 

一週間ほど師匠に師事し、ポカリスエットを買い続け、何名かの女性と

メールをやり取りできるようになった。私が学んだのは、このようなサイトで

女性と出会うのに必要なのは2つだと分かった。その1つは“タイミング”である。

当時のエ〇フレは、同じ都道府県に絞っても3分に1件ほど、新しい女性が

投稿していた。だが、その95%は業者であり、その地雷を踏んでしまえば、

メールアドレスの変更を余儀なくされてしまう。そして、私のように血眼に

なってエ〇フレで検索し続けるライバルは物凄い多いという事も分かる。

 

一度、師匠と冗談半分で“女性”になりすまして友達募集を投稿したところ、

10分で男性から80件近いメッセージが届いた。すぐに投稿を削除し、

メールアドレスを変えたが、サイトは男性と女性の割合が99:1くらい

なのではないかと思ったほどだった。なので女性はおそらく、投稿しては

すぐに削除を繰り返しており、サイト上にずっと残っているのは自然と

サクラの投稿のみになっているのだと断定した。本物の女性が投稿し、

メールが押し寄せる前に投稿を削除するまでの数分間の間に、その女性に

メールをし、知り合いになるタイミングを逃さないのが最も必要な条件だったのだ。

 

そして次に必要なのが“文章力”。投稿後、あっという間に押し寄せるメール

全てに返信する女性は皆無に等しい。いかに目に留まるメールを送り、

返信してもらうかが第2のキーポイントであり、件名と冒頭の1行分の

文章に全てを注いだのだった。

 

「件名:久しぶり♪本文:メアド変えたよ!覚えてる?(笑)」

「件名:お願い♪本文:体目的ではないのですが、籍だけ入れてくれませんか。」

「件名:【緊急連絡】大変です♪本文:とんでもないことになっちゃった!」

上記のようなメールは割と返信率が高かった。大事なのは女性に返信“させる”

ということであり、一度メールが届けば、そこから徐々に関係を構築するのは

そこまで難しいものではなかった。

 

ともあれ、師匠とエ〇フレをフル活用し、月末には莫大なパケット通信料の

せいで母親にお年玉を没収されながらも、私は何名かの顔も分からない女性と

メールができるようになった。ただ、田舎に住んでいることと、部活動が

忙しかったこともあり、なかなか直接会うことはかなわなかった。そんな時、

3日ほどメールをしていた女性から1件のメールが届いた。

『そろそろ、会いたくない?』そのメールを見た私のイチモツが静かに、

ウォーミングアップを始めた。