高校1年生の時に出会い系サイトを知りました

人口が1万人にも満たない北国の田舎町。中心部から車でさらに

1時間ほど山の中へと車を走らせると、私の住んでいた“集落”が現れる。

小学校の全校生徒は約60名。1クラス10人ほどの小学校(中学校も)では、

居眠りなんかもすぐに見つかるので、授業をしっかり受けることができた。

毎日、山や川を渡り30分以上かけて登下校を繰り返せば、基礎体力も

都会の子供よりは高かった。それは20年前の事、私は市内で一番

人気の高校へ入学した。もともと勉強はできる方だったので、抜群の

基礎体力も相まって、成績では何の問題もなかった。

 

ただ、生粋の田舎者だった私は、クラスメイトにいじられながら、

楽しい学校生活を送っていた。もちろん、酒やタバコなどには一切

興味は持たず、法律はもちろん、校則も全て遵守しながら、毎日

2時間かけて自転車通学を続ける“超”優等生だった。高校生活にも慣れ、

初めてのクリスマスを迎えるあたりで、クラスの中でチラホラと

カップルが増え始めた。

 

スカートが短い女子と彼氏の首筋には、キスマークがついていた。

江戸川コナンの正体が工藤新一ぐらい当然のように、私は

バキバキの童貞だった。さらに信じられないことに、思春期男子の

ライフワークであるソロ活動(オナニー)すら一度もしたことが

なかったのである。私のアダルトな情報は、保健体育の授業と、

帰り道にたまに落ちていたビショビショのエロ本しかなかった。

なので特に大きな憧れを抱くこともなく、登下校で疲れ果てた私には、

ソロ活動を行う体力も毎日残っていなかったのである。

 

そんな時、クリスマスムードに後押しされて、私にも彼女ができた。

同じクラスの女子で、あだ名は“ドッスン”という、迫力のある女子だった。

ただ、女性と交際経験もなかった私には、ドッスンをどのように

エスコートすれば良いのかわからず、週に一度の部活が休みの日に、

ショッピングセンターでプリクラを撮る程度であり、手もつなげずに

適度なソーシャルディスタンスを守り続けていた。

 

ドッスンとはヤったのか?」「ドッスンとチューしたの?」などと、

クラスメイトに毎日のように聞かれた。そもそも、なぜお付き合い

したのかも分からず、何がゴールなのかも分からなかった。

何回見てもドッスンドッスンで、外観に魅力は一切感じず、

チャームポイントは毎日変わる髪飾りだけだった。

 

そんなドッスンとの交際に必要性を感じず、どうやって別れた方が

良いのか考え始めたある日、2人でショッピングセンター内のペット

ショップを見ていた時に事件が起きた。セキセイインコが入ったカゴを

ドッスンが見つけた瞬間、インコがパニック状態になり、激しく暴れ出した。

至近距離で突然ドッスンに見つめられれば、羽ばたきたくなるのも理解は

できるが、ドッスンの頭は、インコのせいで飛び散ったオガクズだらけになった。

ドッスンは苦笑いしながら、その場でパラパラとオガクズを振り落としたが、

頭頂部に1粒だけ大きなオガクズが残っていた。「あっ、まだ残ってるよ」と

私が指さすと「えっ、どこ?」と言いながらドッスンは頭を手で掃い続ける。

私は何の気なしに、そのオガクズを指でつまんだ。

 

3ヶ月以上交際し、私が初めてドッスンに触れた瞬間だった。

「キャッ」とドッスンは小さく声をあげた。その声は私の全身に

衝撃を走らせ、ソロ活動すらしていなかった私のイチモツが、

16年かけてようやく目覚めたのもすぐに分かった。

 

ドッスンが乗るバス停まで歩く間も、ドッスンの決して細いとは言えない

その足に釘付けだった。バスが来るまでの間、ギンギンのイチモツを

隠しながら、次にどうすればよいのか考え続けた。キスまでなら

いけるんじゃないか?童貞を16年間守り続けた私は、ドッスンにそれを

捧げる覚悟を決めた。ギンギンのイチモツを鞄で隠し、バス停のベンチに

座るドッスンの目の前に立った。やはりダメだ。改めて正面から見つめると、

やっぱりドッスンドッスンだった。今にもつながりそうな太い眉毛と、

怒っているのか勘違いしてしまうような強面の顔。

 

私がお付き合いしているこの“ドッスン”というあだ名の女性は、

全世界でマリオを踏みつぶし続けてきたドッスンが、ゲームの世界から

飛び出してきただけなのだ。ギンギンのイチモツも落ち着きを取り戻し、

不思議そうな表情のドッスンを乗せて、バスはクッパ城へと帰って行った。

そしてその日の夜、ドッスンから「別れよう」というメールが届いたのだった。

私はなぜかドッスンにフラれ、ショックはなかったものの、“彼女がいない”と

いう事実に虚しさを感じた。メールだけは毎日していたので、ドッスン

別れてしまえば、私の携帯にほとんどメールは来ない。

 

何とも言えない気持ちで携帯を眺めていた時、いつも未開封のまま

削除していた迷惑メールにふと目が留まった。

『タイトル:女弁護士(36歳)があなたの童貞を300万円で落札しました』

なっ・・・なんだと!毛利小五郎の名推理は、実はコナンが行っているくらい

当然だが、これはフィッシングメール。しかし、当時の私は

「なぜ、私が童貞なことを知ってる?」と思い、そのメールのURLを思わず

クリックしてしまった。私と出会い系サイトの長い戦いが始まった瞬間だった。