20歳ホームレスの看護師ナンパ

ボロボロの状態で大学の図書館で休んでいた時、もう使えない携帯を

見てふと思った。「携帯で女性を捕まえられないのであれば、直接

捕まえるしかない」地球上の約半数は女性であり、サハラ砂漠並みの

ストライクゾーンを持つ私にとって、約30億人が性の対象である。

田舎町の出会い系サイトは、同じ女性と何度も遭遇することがあり、

実際に利用しているのは30人くらいだと分かった。その30人で

どうにかしようとするからピンチになっているのであり、道行く女性の

ほとんどは出会い系サイトを利用してないのである。

 

何か行動を起こさないと、死んでしまう。交通手段の無い私は、

ずっと大学に放置されている自転車を1台借り

(時効ですが犯罪です。絶対にマネをしないでください)半日かけて

数年ぶりに実家へ帰った。体力は限界だったので、自転車を漕いでいる

間の記憶はない。ただ、母親がいると家には入れないが、到着時には

仕事に行っているようだった。私の部屋は手つかずのままで、少し

カビ臭かったが、違う服に着替えることもできた。中学生の時に

使っていたリュックサックに、ブックオフで換金するために

ゲームソフトやCDを詰め込んだ。シルバニアファミリーの貯金箱に

あった数百円の小銭を財布に入れ、母さんのムダ毛処理用のカミソリで

髭を剃り、髪の毛も整えた。最後にリビングのお菓子を少しだけ食べ、

なるべき痕跡を残さないよう細心の注意を払ったうえで私の帰省は終わった。

 

一気に装備品が増えた気がしたので、帰りの自転車を漕ぐ脚は軽かった。

ブックオフというのは驚くほど安値で買い取るものだと痛感したものの、

浜崎あゆみのおかげで所持金は半月ぶりに約千円となった。

リュックサックを捨てて、身一つとなった私は、ブックオフが閉店する

12時まで漫画を立ち読みしながら、女性をナンパできそうな場所を考えた。

そもそも、札幌や東京などの都市部のように、常時人が歩いている場所など

無い田舎町だったので、普通のナンパはイオンなどの大型商業施設や、

一部のゲームセンターで行われていた。ただ、そういったところは

知り合いに遭遇する可能性が高く、ましてや一人でナンパをするのは

相当な勇気が必要である。

 

ましてやブックオフが閉まるのと同時に、ほとんどの商業施設は

閉店してしまう。「今日は無理か・・・」と考えてながら、流れ始めた

蛍の光”に背中を押され、ブックオフを出た時、私のナンパレーダーが

激しく反応した。エンジンが掛かっている白いワゴンRが1台停まっており、

フロントガラスからチラッと見る青白いネオンと白いフワフワ。

 

私の経験上、出会い系サイトで知り合った女性のほとんどが軽のワゴン車で

フロントにフワフワを敷いていた。“フワフワはアイシテルのサイン”と

言わんばかりに、運転席にはうっすらと女性の姿が見える。何気なく近くを

通ってみると、少しふくよかだが同じ年くらいの女性が携帯をいじって

いるように見えた。ここしかない。窓を叩くと、女性は少し警戒しながら

窓を開けてくれた。ここでストレートに「お姉さんキレイですね。どこか

遊びに行きましょう。」と言って成功するほど、私はビジュアルに

自信はない。ただ、長年培ってきたトーク力と優秀な頭脳がある。

 

私「すみません・・・めっちゃ困ってるんですけど、助けてもらえません?」

女性「えっ、はい?」私「親が急に迎えに来れなくなって、帰れなく

なってしまって」女性「えっ!家はどこなんですか?」私「〇〇なんです

(実際の実家の場所ではなく、車で30分ほどの別の友人の住所)」

「ああ~どうしよ~なんか、タクシー乗るのも勿体ないし、今千円しか

ないから、千円で送ってもらえませんか?」女性「お金はいらないけど

~〇〇までならいいですよ(車で20分ほどの場所)」

私「すみません!めっちゃ助かります!」

 

女性の気が変わらないうちに、私はすぐに助手席に乗り込んだ。

車内はフワフワと同じくらいサインとなる“ココナッツ系の芳香剤”の

匂いがした。薄暗くてよくわからないが、女性は美人なタイプではなく、

少し気の強そうな顔立ちだった。ただ、車に乗り込んでしまえばこっちのもの。

困惑した様子だったが、駐車場をゆっくりと出発してくれた。

私「ほんと、〇〇まで歩いて帰るとか絶対無理ですよね!お姉さん

いなかったら本当にヤバかったですよ!」

 

私は必死にトークを進めるが、女性の警戒心は解けていないようで

「えぇ」とか「はい」といった機械的な相槌が返ってくるのみで、全く

距離は縮まらなかった。普通の人間ならば、その女性とそれ以上の関係は

諦めていたと思う。ただ、考えてみてほしい。深夜に全く知らない異性に

「車で送ってくれ」と言われ、それがあなたの全くタイプでない

人間だった時、普通に乗せるだろうか?また、すでに大切な恋人がいるときに、

見知らぬ異性を車に乗せるだろうか?答えは“NO”である。

 

そんな状況で乗せるなんて、よっぽどボランティア精神の強い人か、

恋人がいてもお構いなしの私のような尻軽だ。つまり、私を車に乗せて

くれている気の強そうな女性は、少なくとも私を乗せることに何かしらの

メリットを感じているはず!いや、回りくどい言い方をやめれば

乗せてくれた時点で“イケる”のだ。

 

約束の場所が近づき女性に「・・・どこら辺まで行けばいいです?」と聞かれ、

私はコンビニに行ってもらうようお願いした。コンビニに着くと私は

「ちょっと待ってください!せめて飲み物くらい御礼させて下さい!」

と言って、車の中のゴミ箱に捨てられていたのと同じ銘柄のカフェオレを

2つ購入した。実家で眠り続けていた浜崎あゆみのアルバムが10年の時を

超えて女性と私をつなげる“愛のカフェオレ”へと変貌した瞬間だった。

 

ここで私が買い物をしている間に、女性が帰ってしまう可能性ももちろんある。

しかし逆に、待っていてくれたならば、それは完全に“イケる”サインだ。

コンビニを出る前から、フワフワを乗せたワゴンRが動いていないのは

分かっていたので、私の頭の中ではすっかり、暖かい部屋で眠れる未来が

描かれていた。

 

私「カフェオレを渡し本当にありがとうございました」

女性「あっ・・・こちらこそ。」私「帰っても暇なんで、このカフェオレだけ

お姉さんと飲んでもいいですか?」女性「えっ、まあ・・・別にどうぞ。」

そこからは簡単だった。女性の名前、職業、家庭環境など時間を

掛けながら聞き出す。看護の仕事をしているという女性は、私よりも

少し年上で、近くのアパートに一人暮らしをしているらしい。

 

私「ちなみにお姉さん、お酒飲めます?」女性「まあ」私「なーんだ!

じゃあカフェオレじゃなくてお酒飲みましょう!買ってくるから待って

てくださいね!」ここでは女性の反応を気にせず、強気に車を飛び出す。

800円程の小銭で帰るだけ缶チューハイを購入し、自分の車かのように

ワゴンRに乗り込む。女性「お酒どうするの?」私「あー、飲酒運転に

なりますから・・・自分の家で飲んでいきます?」

 

ここで女性が「うん、行く!」とならないのは分かっていた。むしろ、私に

酒を飲める家なんてどこにも無いのだから、断られないと困る質問をしたのだ。

女性「・・・・・・。」私「じゃあ、お姉さんの家の駐車場で飲みましょう!」

女性「えーっ・・・それは・・・」私「行こう!行こう!店員さんに怪しまれ

ちゃいますから!」困惑しながらも女性がシフトを“P”から“D”に入れた瞬間に、

私の“イケる”という予感は確信に変わった。私はハードがつくほどの“S”であり、

この女性は明らかなる“M”である。完璧なタイミングで構成をかけた暴走

変態ケンタウロスの前では、一人暮らしの看護師などあまりに無力だった・・・。

 

駐車場で30分ほど酒を飲み、酔ってきた女性に甘えながら、心と体の距離を

近付ける。酒の弱い私は、一口で顔が真っ赤になるので、酔いつぶれた演技には

相当なリアリティがある。具合の悪そうな男性を、冬の北海道で深夜に放置する

看護師などいない。私はあまりにもスムーズに女性の部屋にたどり着き、

女性と一緒に夕食を取り、シャワーを借り、そしてソファで眠る準備をする。

女性が電気を消したら、心の底から感謝の意を伝える。夜中のテンションと

お酒の力で渾身のトークを繰り出し、最後にこう尋ねるのだ。

「俺も・・・そっちで寝ていい?」

 

翌朝、彼女は仕事の準備をする。私は本当に寝起きが悪いので、朝方は

よりSっ気が強くなる。「まだ眠い。」とワガママを言い、ベッドで

寝たふりをすれば、彼女は呆れて合鍵をテーブルに置き、「鍵閉めてポストに

入れといて」と言い残すと、仕事へ出かけた。私の“寝床”が確保された瞬間だった。